Drum Tree Mixing Tips

Drum Treeを活かすための補足説明

Drum Treeのエンジニア&プロデューサーのIchiroです。ここでは説明書の補足として、Drum Treeを最大限にご活用頂くためのポイントを簡単にまとめてみましたので、何かの参考になればと思います。


Drum Tree収録レベル

Drum Treeを普通にインサートした状態だと、恐らく他のドラム音源よりも少しレベルが小さい状態かと思います。もちろんこれには理由があります。

普通の音源は少しでも第一印象を良くするために、音源単独であっても、思い切りクリップするレベルで聞かせているものが一般的です。しかしこれを楽曲の中で実際に使う場面では、そのままでは必ずマスターがクリップする事になります。音圧競争の強迫観念からなるべくレベルを落としたくない心理が働き、マスターにリミッターを入れてそのままオーバーロードをごまかしたり、してませんよね?^_^

本来は、マスタートラックには何もインサートしない状態で、マスターの赤が付かない所までドラムの音量を落として、歌も楽器も落としてバランスを取りたい所です。ドラムをインサートした後、毎回フェーダーを下げるプロセスは時間の無駄ですので、Drum Treeでは第一印象を考慮せず、実際のミキシングに使いやすいレベル設定にしました。ちょっと玄人指向過ぎるとも思いましたが。

ただショットによっては、実際にはまだチョイ下げの場面もあるかもしれません。なので今までの楽曲のドラムを差し替えてみた時に、単純に同じフェーダー設定で比較すると、Drum Treeが地味に聴こえるかもしれません。Drum Treeを上げるのでは無く、他を下げる方向で、本当に比較するなら、ピークメーターでレベルを合わせてからやってみて下さい。


適正ベロシティ

ベロシティの最大値、127に頻繁に到達する打ち込みは避けて下さい。ミニ・キーボード等では、強いベロシティに偏る傾向があります。普通に叩いたら全部120以上、みたいな状態は、少なくともDrum Tree製作チームの意図する音ではありません。

通常は100前後、思い切り突き抜けたい、ここぞというポイントに、強いベロシティは取っておくくらいが現実に近く、理想的です。Drum Treeの127ベロシティは、本当に思い切り叩いています。プロのドラマーが叩ける最大値です。

一番シンプルな方法は、十分にスピーカーの音量を上げてから、制作を始めてください。普段からCDやitunesなどマスタリングまで完成された音楽を聞いているスピーカーのレベルでは、どうしてもDAW内の音量が小さく感じ、ついフェーダーやベロシティを上げてしまいがちです。意外と誰でも陥りやすい部分です。音がデカ過ぎて、つい弱く叩いてしまう、くらいのスピーカー音量がDrum Treeをよりリアルに鳴らすコツじゃないかと思います。


Drum TreeにEQする

バスドラム

キックに低音をブーストするプラグインを習慣的に入れてる人は、Drum Treeではそれは忘れて下さい。何か特別な意図が無い限り、Drum Treeのキックには、そのジャンルのキックとして、これ以上は入れない方が良い、という十分な超低音が含まれています。

むしろ、スピーカーの設置位置やルームアコースティックにより、ブーミーに感じるキットもあるかもしれません。その場合は乱暴にローカットするのではなく、本当に削りたい場所を細いQでほんの数dBカットするに留めるのが無難です。特に日本のプロダクションは、全般的に下が足りない傾向にあります。

ちなみにロック系のいくつかのKickは、積極的にEQも入れて音を作っていますが、使ったEQはMASELEC MEA-2です。ローを上げてもブーミーになりにくく、タイトな低音が得られるMastering EQです。

基本的にはDrum TreeのキックにEQもコンプも必要ありませんが、例えばGrunge Rockキットのリファレンスに選んだニルバーナ「Smells Like Teen Spirit」は、毎小節の一拍目のキックだけ、4~5kHzを突いて、ビート感を強調したりしています。もしかしたらサビとAメロもちょっと変えてるかもしれません。そういった緻密なミキシングに対応出来るよう、Drum Treeに収録したバランスは、ここで言う、Aメロの音作りにしています。サビでオケが無茶苦茶に混み合ってきた時に、もう少しキックを聴かせたい場面は、4~5kHzをほんの少し足せばOK、という考え方です。

逆にもしキックの低音が足りないと感じる場面があったとしたら、低音を上げるのではなく、欲しい低音が得られる分だけ、キック全体のレベルを上げて下さい。ここで下だけを足すと、相対的に上を削ったのと同じ事でバランスを崩す結果になり、後で別の問題が起きます。

Soul、R&B、Jazzなどは、本当に何もしなくてOKです。むしろJAZZキットの多くは、実はほとんどのパーツは全行程でノーEQです。そこが重要だったりします。(コンテンポラリー系JAZZのシンバルは、録りの段階でNEVE 5315 ConsoleのEQを少し入れています)

細かい周波数の凸凹を整理する事に、重きを置く向きの方もいるかと思います。しかしながら、80年代くらいまでのPOPSは、綺麗に整理整頓して、全体をスッキリ、小じんまりまとめるミキシングが主流でしたが、現代は音の起伏をかえってポジティブに利用して、ダイナミックに音楽を表現する方向に向いています。作家、奏者、エンジニアの意図を越えた音楽的な起伏は、現代ミキシングとしてはむしろ美味しい要素だと言えます。PREMIERの音源シリーズは、はっきりと後者を意識しています。そういう微細な変化に影響を受けない様な、ダイナミックで強いミキシングが理想的です。

スネア

曲全体をブライトに聴かせるために、スネアの高域は足すものだという持論のお持ちの方も、Drum Treeではその事は忘れて下さい。Drum Treeの高域が足りないと思う場面はまず無いかと思いますが、スネアの上を足したくなる場面のほとんどは、アタックのスピード感が足りない事と、ニアリー・イコールであったりします。

Drum Treeでは変に高域を上げたり、音量を大きく聞かせたりする事は一切していませんが、近現代キットでは、タイトで速いアタックをアナログコンプで作っています。SSL G Series Compressorで高解像感とリッチな深みを与え、Manley Stereo Variable Muで音をもっと近くに、Tube Tech SMC 2BMでアタック感をビシっと作る、というパターンが多かったです。

RUPERT NEVE DESIGNS 5059サミングミキサーなんかも通っていて、重心を下げる事に貢献してくれています。AD/DAはLavry Engineering AD122-96 MXと、同じくLavry Quintessence DA-N5です。

Drum Treeは、96kHzで収録されていますので、それ以外のレートのセッションでは、Kontaktの自動コンバーターが常に介入します。これは想像以上に音が荒れ、本来のエネルギーが減退します。単独では気にならなくても、マスタリング時に差が出ますので、なんとなく地味だなあと思ったら、96kHzで一度じっくり試してみて下さい。今ではノートブックでも96kHzセッションくらい、軽く仕事が出来ますので。


ミックスで陥りやすいミス

ミスとまで言うべきかはさておき、お客様から持ち込まれた音楽をマスタリングする時に、よくある困る事例をいくつかご紹介します。

ベースだけ太くてキックが細い

ビートが不明瞭でドラムを上げたくても、キックに対して圧倒的にベースが大きく、完全にキックがマスキングされてしまい、マスタリングでどうにも改善出来ない事が度々あります。

これはもしかしたらichiroの持論なだけかもしれませんので、反論のある方もいるかと思いますが、大切な事は、キックの低音をベースの低音が追い越さない事です。超低音はキックに任せて、ベースはそれ以下を支配してはならないという事です。レベル的にも、キックよりベースが大きい事は、基本的には避けるべきです。

これには理由がありまして、キックの様な瞬間的な超低音は、大迫力のローがあっても全然問題無いのですが、ベースの様な持続音に低音過多が続くと、環境により様々な問題となり得ます。キックの頻度が高い、もしくはキックを隙間無く連打する様なRockも、低音の入れ過ぎには注意を要します。

がっつりサブウーハーを入れている環境では問題にすぐに気づきますが、スモールモニターではなかなか判断が難しい部分と思います。Drum TreeとBass Premierとの組み合わせなら、双方のバランスだけ気を使っておけば、何もEQせずに自然にこのバランスになると思います。

もし大迫力のシンセベースなど聴かせたい場合は、サイドチェインをしっかり入れて、キックをベースの中に埋もれさせない処理をして下さい。サイドチェインってどうやるんだ?という方は、Youtubeで解説ビデオがたくさんありますので、これを機に是非習得して下さい。ミックスが変わりますので。

ハットがシンバルを追い越さない

同じ理由で、ハットの高域が、シンバルの高域を上回らない様、ichiroは心がけています。ハットは常に鳴っていますから、楽曲のアクセント、つまり時折出てくるシンバルの拍で一番曲がワイドに飛び出して欲しい。そのためにはシンバルはハットよりもう一段上が、鳴って欲しいのです。

シンバルを打たないジャンルにおいてハットで上を稼ぐのは一つの考え方ですが、恐らくDrum Treeはいずれにせよ、後処理は必要ないかと思います。

それからドラムの音圧を上げたくて、単独でブリックウォール・リミッターを入れたりは、しない方が無難です。ただ音を劣化させるだけです。マスタリングだ!と言ってマスターフェーダーにプラグインをインサートしまくるのも、音をくぐもらせる要因となります。

いろいろ書きなぐりましたが、本当はこんな事はクリエーターにとっては、どうでも良い事です。それより良い音楽を作る事に集中して、こういう作業は人に丸投げすればいいのです。そのためのDrum Treeです。Drum Treeを買ったから、ミックス手伝ってくれ、とメールを頂ければ一肌脱がない訳にいきません^_^、ichiroで良ければいつでもお手伝いしますので。


今後の展望

Native InstrumentsのNKSに正式対応する予定です。MaschineでDrum Treeを叩きまくって下さい。また、ループが欲しい、というご要望をたくさん頂いています。(対応しました)

Drum Treeで音のコアな部分は完成しました。次はDrum Tree専用Loopツールの案を、温めています。面白いアイディアを思いついたら、追ってアナウンスします。その前に大幅に遅れているお箏・和太鼓に、早速取り掛かります。

by エンジニアichiro
PREMIER Engineering Inc.


追記(2017/0216)

たくさんの方に読んで頂き、また超ベテランの面々からもたくさんご連絡を頂きました。誠にありがとうございます。特にベテランの方や高名なエンジニアの方に対しては大変恐縮ではありますが、数少ない日本のディベロッパーとして、こういった製作側の本音をダイレクトにお伝えしていく事は意外と有益じゃないかな、という事で、恥ずかしながら今後も少し書き足していこうと思っております。

それから、ユーザー様の声も続々と届いておりまして、全て拝読させて頂いております。これからお一人づつきちんとご返信致します。こちらのサイトでもコメントをご紹介させて頂ければと思っております。


ノブの初期化

GUIスペース上の制約もありますが、数値ではなく音で判断するアナログスタイルという事で、Drum Treeミキサーには数値表示がありません。でもノブを初期値に戻す際に困る時があるので、ショートカットをご案内します。

「Ctrlキー」(Windows)または「Cmdキー」(Mac)を押しながらクリックする事で、ノブを「0」にリセット出来ます。

またノブを右クリックでKontaktのMIDIラーンモードにアクセス出来ます。お手持ちのMIDIコントローラーにアサインしたり出来ます。詳しくはKontaktのマニュアルやYoutube等でご確認下さい。


セッティング・ファイルのバックアップ

ミキサーセッティング、パーツの組み合わせを、保存する事が出来ます。

保存したいジャンル名を選んで、Saveを押します。保存されたファイルは、DrumTree/Settingsフォルダの中に番号順に並んでいます。Playボタンで再生されるデモのMIDIファイルは、patternsフォルダに入っています。ここも自分のパターンに差し替え可能です。番号とキット対応表はこちらを参考にしてください。

Drum Tree – Program lists
http://drumtree.net/drumtree-programlist.pdf

これらの保存は上書き保存のため、元のセッティングに戻したくなった時のために、SettingフォルダとPatternsフォルダは別の場所に複製し、バックアップを取っておく事をオススメ致します。


クローズド・ハイハットの振る舞い

Drum Treeは基本的にGM音源配列に準拠していますが、若干動きが独特の部分もあります。

通常はベロシティにより音の強弱をコントロールしますが、F#1のクローズド・ハイハットのみ、ここは強弱ではなくハットの開き具合が変化します。多様なハーフオープンの開き具合を再現するためにその様にしましたが、完全に閉じたハットが欲しい時には、鍵盤を弱く叩く必要があります。これを打ちやすくして欲しいとのご要望を頂いています。この両方のニーズにどう対応するか悩んでおります。

F#1は完全クローズ固定にするスイッチを用意するとか、ベロシティマップ全体を強い側に寄せるとか。何か良いアイディアがありましたら是非ご連絡下さい^_^

(追記 2017/0217)

Drum Treeスクリプト・プログラマーのAIKEさんから、いきなり素晴らしい解決策を頂きました。Kontaktのマルチスクリプト機能を利用し、直接Drum Treeプログラムに手を加える事なく実現出来ました。

ハイハット(F#1のみ)が一定以上のベロシティにならないようにして、ハーフオープンの音を出さなくするスクリプトです。

【インストール】

Macの場合/Users/(ユーザ名)/Documents/Native Instruments/Kontakt 5/presets/Multiscripts/
のフォルダにzip解凍したCloseHihat.nkpを入れてください。

Windowsの場合C:/Users/(ユーザ名)/Documents/Native Instruments/Kontakt /Presets/Multiscripts

【使い方】

  • 添付のスクリーンショットのようにしてCloseHihatを読み込みます。
  • MaxVelocityノブが表示されるので、ベロシティ最大値を100程度にするとハーフオープンの音が出なくなります。
  • MaxVelocityの値はDAWのプロジェクトに記憶されます。

(追記 2017/0222)

上記はクローズHHのみのコントロール・ノブでしたが、オープンHHもコントロール出来るスクリプトもご用意致しました。ノブが二個になります。

クローズHHノブは上記と同じものなので、こちらをDLして頂ければ上記は必要ありません。ちなみに、一定以上のベロシティをリミットさせているのではなく、リミットを上限として比率を保ったまま大きいベロシティも小さいベロシティも圧縮するスクリプトです。


アンビエントOUT(2017/0222)

Drum Treeをマルチアウトで使用する場合、アンビエントは無効化する仕様になっております。DAW上でリバーブを利用する前提ですが、Drum Treeと同じ質感でご利用頂くために、Drum Treeのコンボリューション・リバーブの2種類のインパルス・レスポンスを公開致します。市販のサンプリング・リバーブにインストールしてご利用下さい。

IRのインストール方法は、各リバーブの説明書にてご確認下さいませ。


ビギナーのみなさまへ(2017/0226)

初心者の方から良いご質問を頂きましたので、参考のためにご紹介致します。

“このDrumTreeにはEQもコンプレッサーもかけずにそのまま使っていいんですね?今、60’s Jazzを使って曲を作っているのですが、100Hz以下が少し弱い感じがするのと、もう少し奥にやったほうがいいかなぁとも思っているところです。”

というご質問です。

まずは、Drum Treeのプログラムリストはご覧になった事はありますでしょうか。

http://drumtree.net/drumtree-programlist.pdf

ここから、具体的にリファレンスにした曲のYoutubeにリンクしてありますので、オリジナルの音を聞く事が出来ます。

60’s Jazzは具体的にリンクはしていなかったかもしれせんが、複数のリファレンスのキックの音をよく聞いて頂けると、各時代、各ジャンルでどのような処理をしているのか、いろいろ違いを発見されると思います。その上で、ご希望に近い適切なキットを選んで頂くことで、Drum Treeの潜在能力を活かせるだろうと思います。

もちろん60’s Jazzの低音をEQで足しても構いませんが、キックの低音が欲しい場合は、近現代のキットを選ぶ方が、最初からご希望の処理に近い音があるかと思います。

エンジニアリングに精通していない限り、コンプは入れない方が良い結果になると思います。また何のためのコンプなのか、明確な目的が無い場合は、Drum Treeに限らず要注意と思います。

ここからは私の想像ですが、これまで使っていたドラム音源がモケた音だったので、それに合わせて、全体を弱くする方向でミックスされていたのと思います。(そんな馬鹿なと思われる方もいると思いますが、このパターンの方があとを絶ちません!悪いのは音源なのですが。)

そして今までの曲をDrum Treeに差し替えた時、急にドラムだけ鮮烈に鳴って、他のミックスとのバランスが合わなくなっているのでは無いでしょうか。

ドラムが引っ込んで前に出てこない場合は、レベルを上げても混み合ったオケの中ではなかなか前に出てこれず、処理が難しいのですが、逆にもっとドラムを奥にしたい場合は、単純に音量を下げてうまくいかないでしょうか。

でも本当はドラムを奥に押し込めるより、歌やベースなど他を前に出すべきなので、どうしたらドラムに負けない音になるのか、他を改善する方法を工夫して頂く方が、作品全体のクオリティは上がると思います。

マスタリング時に、いくらリミッターでぶっ潰しても音負けしてしまう事に悩んでいる方はいませんか?この原因は正にこれです。単純に元の音が弱いのです。この場合、マスタリング・エンジニアがいくら頑張ってもどうにもなりません。別に音圧競争を推奨するつもりはありませんが、元音がちゃんと録音されていれば、USメジャーと同等の音圧はごく自然に得られます。

Drum Treeの真価を活かせるよう、心から願っております。


プリセットをいくつでも保存出来る「snap shot機能」(2017/0530)

「楽曲ごとに細かく設定したドラムキットを保存しておきたい!」

「10セットくらい、自分の好みのセットをとっておきたい!」

そんな貴方に、良い方法があります。Kontaktのスナップショット機能を使えば、いくつでも設定を保存しておけます。

カメラマークをクリックし、saveボタンを押して、分かりやすい名前を付けるだけです。フェーダーやノブの値も完璧に再現出来ます。これでさらにDrum Treeも便利に使えるかと思います!

それから起動時にいつも60’s Detroit Popに設定が戻ってしまうという方が、もしいらっしゃいましたら、Drum Treeは一度マイナーアップデートをしています。

こちらのnkiファイルをダウンロードして、instrumentsフォルダ内のnkiファイルと差し替えて下さい。


Roland V-Drum用Drum Tree Map

手元にV-Drumが無いため、実機で試しておりませんが、このマルチスクリプトで柔軟なMIDI設定が可能です。これを元に最適な設定を作成出来るかと思います。(MIDIに関する知識が必要です。サポート対象外。)


Drum Tree®公式サイト
https://premiersoundfactory.jp/drumtree/